大きすぎる人参の居場所がない

人参

左が通常の長さ、右が大きすぎる人参

大きくなりすぎた人参の居場所がない。通常は1本あたり150g前後くらいだと思うが、今年、大きくなりすぎたものはその倍以上ある。小さな大根くらい巨大化したものもあって、条件が変われば人参の姿はこんなにも変化するのかと驚いている。

表面の肌の感じや根の先端の形、へたの部分のへこみ具合からして、できはよくて味もいつも通りなのだけれど、なにしろ大きすぎて家庭では扱いにくいせいか、売れない、売れない。

おいしくないなら諦めもつくが、おいしいのに売れないのは、悲しみで畑が詰まりそうだ。

大きくなりすぎた原因はたぶんふたつ、発芽の悪さと暖冬だ。

うちでは、人参の種は一列に何粒もまく「すじまき」にしてたくさん発芽させ、収穫するまで2回くらい間引いて育てている。人参は春の風物詩セリの仲間。セリは「競り」に通じることから、びっしり発芽させて競わせたほうが育ちがいいと教わった。言い伝えられてきた古老の教えなのだろう。

ただ、秋から冬にかけて収穫する人参の間引き作業は真夏になる。炎天下、小さな人参の芽を一つ一つ指でつまみ抜くようにする作業を延々と続けるのは、あまり体にいいとは言えない。あわせて、小さな人参の芽の間から顔を出す草も取らなければならないから、なおさらだ。

最近の主流と言ってていいのかわからないけれど、こうした労力を軽減するコート種子(コーティング種子、またはペレット種子)というものがある。人参の種をすじまきにする理由は、先にも書いた「競わせる」以外に、種が扁平で小さすぎるため、種まき機では一定の間隔をあけて播く点播きができないことが大きい。種の表面をコーティングして少し大きくし、球形に近くすることで種まき機で点播きできるようになるため、間引きが必要なくなる。

人間はいろいろなことを考え出すものだ。

さまざまな技術の特許を分類して紹介するekouhou.netによると、コーティングの素材は, シリカ、タルク(鉱物の一種)、カオリナイト(鉱物の一種)、珪藻土(珪藻という藻の仲間が堆積したもの)、炭酸カルシウム、鉄粉などで、これらの単体または混合物に結合剤(デンプン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン)と水を混ぜて種の表面にコーティングする。

今年は、人参の種をまく時期の暑さが尋常ではなく、雨も少なかったこともあってか、発芽が悪く、残念なことに間引く必要のないくらいしか芽が出なかった。人参は発芽させるのが一番難しいとよく言われるけれど、それにしても、出てきた目の数は悲しくなるほどだった。

間引きの必要がないということは、隣の芽との間がはじめから十分空いている状態なわけなので、競る必要がない。さらに本来なら夏から秋、冬に向かう気温の低下で生育がゆっくりになるべきのところ、暖冬の影響ですくすくと育った。その結果、長いもので30cmを超える巨大人参がいくつも生まれたのだろう。

そして売れ残り、居場所のない行き先をなくした人参たちのさみしさが募り続ける。

人参たちの居場所をどうにかして見つけてやりたいのだけれど、今のところ情けないことにいい案が浮かばない。このままでは、人間の都合とは違う世界でしっかり生長した人参たちの顔を見るのがつらい。

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