さまざまな生き物を育む有機農業の力

雨が続き、畑の作業ができないので、落ち葉堆肥の切り返しをすることにした。

うちでは研修先にならって、2月ごろから夏野菜(ナス、トマト、キュウリ、ピーマンなど)の苗を育てるため、踏み込み温床という昔ながらの苗床を作る。夏野菜の種は気温が高くないと発芽しないので、外で苗を育てる場合はうちのあたりだと5月以降になる。それでは夏の始まりに収穫できないので、まだ寒いうちに踏み込み温床の熱を使って種まきをし、早めに苗を育てるわけだ。

踏み込み温床というのは、竹や木の杭とわらで作った囲いのなかに大量の落ち葉と米ぬか、鶏糞、籾殻などの材料をサンドウィッチのように積み、水をかけて足で踏み込む、という作業を繰り返して落ち葉を発酵させ、その熱で温室のようにしたもの。
温室といっても、使う材料は蓋(うちでは廃棄されたアルミサッシの窓を再利用している)の部分を除き、すべて土に還り、作物の力になるものだ。森林で落ち葉掃きをして落ち葉を集めるので、山の管理の一助にもなるし、発酵分解された落ち葉は、有機農業の苗づくりにとって欠かせない良質な腐葉土になる。さらに、電気を使った電熱温床のように、発熱に電気を使う必要もない。すばらしい伝統的な知恵だ。
ただ、正直に告白すれば、大量の落ち葉を集めるのが、なかなかしんどい。

この温床、使い終わった後、積み込んだ落ち葉などを一定期間、畑の端に山のように積み、何回か切り返して空気を入れて分解を促し、腐葉土にする。腐葉土にするために働いてもらう必要のある菌は、好気性菌といって空気を好む菌なので、この切り返しが必要になる。

踏み込み温床

腐葉土のなかのカブトムシの幼虫


その切り返し作業をしていたところ、たくさんのカブトムシの幼虫が顔を出した。落ち葉をエサにするので、餌の山を見つけたカブトムシがここに卵を生むのだろう。この幼虫たちや、ミミズ、ヤスデなどのさまざまな生き物たちが落ち葉を食べてくれることで、分解がさらに進む。
落ち葉集めは労力が必要だけれど、冬の寒さのなかでかいた汗は、さまざまな生き物の糧となり、間接的にその生き物を餌とする動物(鳥や小動物など)たちの食べ物を生み出すことにもなる。

有機農業は、単に農薬と化学肥料を使わない農業ではなく、人間の命を養う農業生産とあわせてさまざまな生き物の命を育み、さらにその力も借りて作物の栽培に用いる農業だと思う。

うちの作物の販売代金は、市場を経由してスーパーなどで販売されるものより少し高い。その代金は、農薬や化学肥料を使わないことに由来する労力(手で草を取るなど)や、食べる人の安心・安全だけでなく、こうした生き物たちの命を育むことにも繋がっているということが、野菜を買ってくださる方に少しでも伝わったらありがたいことだ。

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