農の仕事をしていると、あちこちで耕作放棄地を見かけます。
草がぼうぼうに生えている程度なら、まだ農地として回復させるのは難しくありませんが、篠竹がおいしげったり、潅木が生えてきて森林へ遷移しつつある土地などもあり、こうした放棄地の拡大が近隣の農地や人間の居住地を圧迫し始めているのです。
このままではいけないとの強い危機感から、耕作放棄地に生える篠竹などを使って炭焼きをする本プロジェクトを思いついました。
もくじ
プロジェクト発案の背景
会社員時代から、テレビのニュースなどで人が山に入らなくなって荒廃していること、それによって野生動物の住処と人間の居住地域の境界が曖昧になってイノシシなどが出没し、田畑の農作物を荒らしていることなどは知っていました。
ただ、世の中のさまざまな問題に共通することですが、現場にいないとその空気感は理解しにくいし、伝わらないものです。東京の会社員だった私にとっては、ほとんど現実味のない話で、遠い世界の出来事や対岸の火事のような捉え方をしていたように記憶しています。都市に住む自分には、野生動物との心理的な距離はかなり長く感じたことも影響しているのでしょう。

【写真1】猟師がしかけた罠にかかったイノシシ
寄居町で農業を始めてからは、意識が大きく変わりました。里地里山と生活圏が重なるここでは、田畑への害を別にすれば、狐、雉、狸、猪、兎、浣熊(アライグマ)、穴熊、鹿など、さまざまな動物の存在を日常的に見聞きします。
里地里山が荒れ、生き物の多様性が低下
山と人の暮らしが近かった頃、山で取れる資源(食料、燃料、建築材料、家畜の飼料など)は人の暮らしに欠かせないものでした。しかし、高齢化や人口減少、人間の暮らし方や経済・産業構造の変化などにより、農業や林業を離れる人が増え、人々の生活と山・土との距離がどんどん離れてきています。

【写真2】耕作放棄されて草が生い茂る畑。このまま放棄され続けると数年で写真3のように林地へと姿を変える。

【写真3】耕作放棄地されて林地となった農地
人と農・山とのつながりが切れていくにしたがって、耕作放棄地や荒れた里地里山が増えてきました。なかでもコナラ林やアカマツ林タイプなどの里山は、管理されずに放置されると竹類や根笹類などが生い茂って森林の構造が単純化し、生き物の多様性が低下するといわれています。
参考資料3 里地里山の現状と課題について(環境省)
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/conf_pu/21_01/shiryo3.pdf
山が荒れ、生き物の多様性が低下したことで、そこで生きてきた動物たちの生活環境にも変化が起きているのでしょう。さらに外来種の侵入等、さまざまな問題が絡み合った結果、耕作放棄されて荒れた農地をつたい、動物たちが人間の居住区域である里に姿を現して作物を食害するようになってきています。

【写真4】美しい田園風景は人間の手入れのたまもの
失われていく美しい風景
さらに、荒地に生える笹、篠竹、潅木などが近隣の農地を含む里地里山に拡大侵入してきています。春の新緑や秋の紅葉、黄金色に染まった田んぼなど、旅先で見られる風光明媚な景色も含め、これらはその土地の先人たちの長い年月にわたる手入れにより維持されてきた里地里山の美です。わたしたちの郷愁を誘うこうした日本の原風景が、荒地の拡大によって各地で急速に失われてきているのです。

【写真5】管理が放棄されて荒れた竹林

【写真6】手入れされた竹林
できることから始めよう!
とはいえ、悲観しばかりしていても何も解決しませんので、できることから始めよう! ということで考えたのが、この「荒地再生炭焼きプロジェクト」です。
プロジェクト概要
1、荒れた里地里山に生える篠竹、笹、茅などを資源としてとらえ直します。
2、それらの資源を材料にして炭焼きをします。
3、その炭を農地に返して土を豊かにします。(▶︎▶︎炭の土壌改良効果)
4、里地里山の資源(炭)を農地で活用することで、山と農地とのつながりや資源循環の和を再生し、豊かな収穫物、野生動物による作物の食害防止、美しい風景の回復につなげます。
5、焼いた炭を販売してプロジェクトの広報につなげ、売り上げを活動資金にあてます。(活動の持続可能性を担保)
具体的な取り組み
(冬季を中心)
・荒れた里地里山の刈り払い
・刈った資源を用いた炭焼き
・炭の販売
・ウェブサイト、ブログを使った広報 など
使う道具
・ノコギリ
・無煙炭化器(モキ製作所)

無煙炭化器で炭焼きしているところ

荒地の篠竹を材料にして無煙炭化器で焼いた炭
実施場所
埼玉県大里郡寄居町男衾地区
【寄居町の位置】
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