土から生まれ土にかえる

手入れされた美しい田園風景
土から生まれ土にかえる

もくじ

農薬と化学肥料を使わないもう一つの理由

 

畑は本来、その土地でとれる資源を上手に活かして作物を生産する資源循環の場であると同時に、さまざまな生き物が生きる場でもありました。

 
 
畑の生き物というと、作物を食害する虫がまっさきに思い浮かぶかもしれませんが、それらを食べる、いわゆる天敵もいますし、土の中で生きながら作物の生長を陰で支える土壌生物(ミミズやトビムシなど)と呼ばれる生き物もたくさんいます。
 

畑の典型的な「害虫」とされる夜盗虫(よとうむし)。こうした特定の生きものが爆発的に増えないように管理するのが有機農業の大切な仕事です。

 
こうした生き物たちは食べたり食べられたりといった食物連鎖のなかで命をつないでいますので、農薬を使って特定の生き物を一気に殺してしまうと、この連鎖が崩れてしまい、生き物のバランスを崩してしまうおそれがあります。トキが絶滅の危機に瀕した理由のひとつに、こうした農薬の使用があると指摘されています。
 
 

といっても、「どんな生き物も殺してはいけない」と言いたいわけではありません。生業として農業をやっていますので、作物を食害する虫をみつければ手で取ってつぶすこともあります。ただ、薬物をまいて生き物を殲滅するようなことはしたくないので、農薬は使わないのです。地球があまりにも人間中心に動かされてきていることへの小さな抵抗でもあります。
 
 

化学肥料頼りの問題点

もうひとつは農薬と同じように広く一般的に使われている化学肥料です。現代の化学肥料は限りある石油などのエネルギーと鉱物資源なしに作ることはできないため、化学肥料頼りでは持続可能な農業は実現できません。
 
 

【ご参考】化学肥料Q&A(日本肥料アンモニア協会)

http://www.jaf.gr.jp/hiryou/question/Q3.htm

 
 

それに、化学肥料だけで作物を栽培し続け、畑に生き物の餌となる有機物(ここでは草、落ち葉、それらを材料にした堆肥など)を入れないと、土を豊かにする働きのある生き物が生きていけなくなり、土がどんどんやせていってしまうのです。やせた土では健康な作物は育たず、病気や虫にやられてしまいます。その結果、農薬の使用、という悪循環に陥っているのではないかと思います。
 
 

里山とのつながりを回復させる有機農業

化学肥料がなかった時代に行われていたように、畑の近場で手に入る有機物を上手に活用すれば、畑やその周囲は生き生きと蘇るはずです。地権の問題があるので一筋縄にはいかないかもしれませんが、例えば荒れてしまった里山の下草刈りや落ち葉掃きをしたり、耕作放棄地や川原、空き地の草刈りをしたりして、そこで集めた草や落ち葉などの有機物を畑に還元する。

刈り草を畑に返す「草マルチ(刈り敷き)」の多様な効果についてはこちら
荒地に生い茂る篠竹も、活用方法次第では立派な資源として蘇るはずとの確信から、「荒地再生炭焼きプロジェクト」といったようなことも考えています。

▶︎▶︎荒地再生炭焼きプロジェクトについて

 
 

山の落ち葉をかき集めて作る腐葉土は有機農業に欠かせません。

 
 
里山が蘇れば野生動物による農作物の食害も減るでしょうし、美しい農村の風景も戻ってくるはずです。耕作放棄地が資源採取・循環の場として捉え直されれば、その数が減るかもしれませんし、地域内での資源循環の輪を再び作り上げることもできると思うのです。

 
 
実際に自分の農場を経営しながら、荒れた里山の再生までやるのはなかなか骨の折れることで、腐葉土(野菜の苗を育てるのに使う)の材料を集めるための落ち葉掃きくらいしかできないかもしれませんが、それでも、有機農業で生計を立てていく以上、頭のなかではこうしたことを常に考えていきたいと思っています。
 
 

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