打木源助大根の食味試験_「甘みがある」は本当か?
打木源助大根という品種の大根を栽培している。
加賀の伝統野菜に指定されている大根で、加賀のおでんには欠かせない存在だそうだ。長さは20〜30センチほどと短くてずんぐりとした形をしている。大きくないので食べきりサイズだし、冷蔵庫にも入れやすい。昭和の初めごろに生まれた品種だけれど、核家族化が進む現代の暮らしにもあっているかもしれない。
さらに、繊維質が少なく、煮ると肉質なめらかでやわらかいが、煮崩れすることはない。さらに甘みがあるという、煮大根好きには嬉しい大根だ。とはいえ、もちろんいいこと尽くめではない。栽培や販売の面からすると、日持ちがよくない、表面に傷がつくと2、3日で変色してしまう、収穫が遅れるとすが入りやすい、といった難点がある。
でも、やはり味の良さを優先したい身としては、この大根を育てて少しでも多くの人に昔ながらの良さを伝えたい。この大根の難点のうち、「日持ちがよくない」、「傷つくと変色しやすい」の2点は、市場経由の長期輸送には向かないけれど、うちのような畑と販売先が一本でまっすぐ繋がっている直販ならば、注意して扱えば大きな問題にはならないはずだ。あとは、簡単なことではないけれど、収穫が遅れないように気をつければいい。
さて、その打木源助大根が収穫を迎えている。うちでは、「むかし野菜シリーズ」のひとつとして、そのことがわかるようにシールを貼り、この大根を販売することにした。キャッチフレーズは「繊維質が少なく甘みがある 打木源助大根」。
昨日、熊谷市にある直売所のわくわく広場にこの大根を納品した。今までも何度か納品していたけれど、値札シールを貼って並べただけで、大根の特徴について記したPOPやシールは余裕がなくて用意できなかった。でも、それだとはやり打木源助大根のよさを知らない人には、短くて小さい割に割高の大根にしか見えなくて、あまり売れなかった。すぐ隣に立派な青首大根が手頃な値段で売られているのだから、無理もないだろう。
今回は頑張ってシールを用意し、10本納品した。大根の棚にはライバルの生産者が(品種は違うので比べる意味はないけれど)立派な姿の大根を並べている。値段も悪くない。うーん、この大根と勝負するのはちょっと辛そうだな、いくらかでも売れて、食べてもらえれば、時間はかかってもおいしさが伝わるはずだ、と前向きに捉えることにしたが、売れるかどうか心配でならない。
夜、表面に傷や割れがあって出荷できなかった打木源助大根をつかい、妻が煮物をつくってくれた。看板に偽り無し、の味かどうか心のもやもやを抱えながら口に運ぶと、食感はいつわりなし。たしかにやわらかくなめらかで、味がしみている。筋っぽさはまったくない。ただ、残念ながら苦い! なぜだ!?
出荷できない品質の大根を調理したものだから、何か問題があったのか? 出荷したものも同じように苦かったら、買ってくれた人はがっかりするだろう。これは栽培した人間としてとてもつらい。
ネットでいろいろ調べてみたけれど、品種特性としてはやはり甘みがあるようなので、栽培管理が悪かったのか、収穫のタイミングか、それとも調理か。調理については、下ゆでしないと苦味がでる、という情報がたくさん出てくるけれど、うちでは通常は下ゆでなんかしなくても苦味はでない。
妻が
「大根にすが少し入っていた」
と言っていたので、それも影響しているのかもしれないけれど、すが入っても筋っぽくはなるけれど苦くはならないはずだ…。
はっきりしたことはわからないので、残っていた打木源助大根を水で煮て味付けせずに食べてみることにした。上、中、下と部位別に切り方を変えて、味の違いがわかるよういしてから、水を入れた鍋に切った大根を入れ、ことこと煮て、箸がすっと刺さるようになったところで木のお椀に取り出す。鍋の蓋をあけると、大根の甘みがのった香りが立ちのぼる。これは苦くなさそうだ。
口に入れると、しっとり柔らかく、大根らしいやさしい甘みに富んでいて、何も味付けしていないのにとてもおいしい。煮汁も大根の出汁が出て、これだけでがぶがぶ飲める味。これは嬉しい。昨夜の大根は一体なぜ苦かったのだろう?
翌日の朝、前日の売り上げ報告メールが届く。だ、大根は??
なんと、見事完売! 安堵と同時に、売れた大根のなかに苦いものが混じっていないことを祈るばかり…。
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